2025.12.05
༄༅། །རྗེ་་བཙུན་བླ་མ་བློ་བཟན་གྲགས་པའི་དཔལ་གྱི་གསང་བའི་རྣམ་ཐར་གསོལ་འདེབས་བཞུགས་སོ།།

ジェ・ツォンカパ大師の秘密行状記を請願文としたもの

『至尊師ロサンタクペーペルの秘密行状請願』
ジャムヤンチュージェ・タシーパルデン著/訳・文:野村正次郎

法王ツォンカパを礼拝します

君の智慧は広大無辺の虚空である

如実如量に通じ光線を放っている

勝子の太陽よ 至尊法主よ

吉祥師 君の足塵を奉戴する

君がもたれる身口意の功徳は

十方に住する 勝者や勝子でさえ

すべてを語ることなど出来ないが

浄信で綴ってみたい お聴き下さい

功徳海を讃嘆する辞句の華鬘が

明善の智者たちの耳珞とするため

浄信の福徳を増大させる大宝として

私が成してみた 賢衆よ 歓び給え

紅葉の錦が落ち始める頃、日本では12月になりチベット暦は十月となる。外気は寒くなり、さらに一枚着物が必要な時期である。ついこの間まで湯から煙が出ていたものも暑く感じられていたが、いまは湯気に手を翳して暖かさを実感したい季節となる。チベット暦10月25日は、ゲルク派の宗祖ジェ・ツォンカパ・ロサンタクパの入寂の日にあたり、今年は来週の12月14日(日)である。チベット仏教圏全域で、灯明が灯され、「夜が昼のように」と彼らが表現するように、闇を明るくする美しい明かりがインドから北はロシアまで満ちていく。チベット文化圏の厳しい冬のはじまりの張り詰めた透き通った夜空を明るくするこの灯明は、ジェ・ツォンカパ大師の入寂の年である1419年から数えると今年で606年目である。

ジェ・ツォンカパ大師の入寂の3年前、1416年にジェ・ツォンカパ大師の命を受けた高弟ジャムヤンチュージェ・タシーパルデンはラサのゲペル山の麓にデプン大僧院を創設した。デプン大僧院はモンゴル皇帝や清朝皇帝などから篤い信仰を受けた世界最大の学問僧院である。これからここに訳出するこの詩篇は、このジャムヤンチュージェが師ジェ・ツォンカパを礼讃して、請願して綴った『秘密の伝記』であり、来週のジェ・ツォンカパ大師の遠忌法要には、必ずすべてのゲルク派の僧院で行われる法要で僧侶全員によって唱えられるものである。今年もジェ・ツォンカパ大師の遠忌兜率五供の大法要は幸運なことにダライ・ラマ法王猊下が来週から本山デプン・ゴマン学堂の新問答法苑にて開催されることが決定し、日本の支部からはゴペル・リンポチェもその法要に御出仕されるために来週にはインドにお戻りになる。当初今年の兜率五供は日本別院で、ジェ・ツォンカパ大師を諸尊と一体として観想する観想法の伝授会を開催させて頂く予定であったが、ダライ・ラマ法王猊下が本山にご来臨されるため、デプン・ゴマン学堂の僧侶たちは、お迎えするための準備に追われている。

ゲルク派の宗祖ジェ・ツォンカパ・ロサンタクパの伝記のうちの主要なものは既に福田洋一・石濱裕美子の両氏によって和訳され『聖ツォンカパ伝』(大東出版社、2008年)に収録されているが、本編はそこには含まれていないので、ゴペル・リンポチェがインドに帰られる前にすべて教わってそれをここに本日チベット暦10月16日よりはじめて10月25日の兜率五供の当日に訳出も完成するような形で掲載してみたいと思う。

 冒頭のこの部分は、内容としては礼讃文、礼讃供養偈、著述宣言、聴聞の要請であり、表現も平易でわかりやすい。「如実如量に通じ」ということは、仏位のみにある一切相智のことを表しており、ジャムヤンチュージェはジェ・ツォンカパ大師に対して、如来と一体の存在として礼讃している。「吉祥師」という場合の「吉祥」「栄光をもつ」という表現は、ジェ・ツォンカパが別の著作で形容するように、方便と智慧を究竟した栄光をもつ存在であるということである。著述宣言の部分では、ジェ・ツォンカパ大師のその功徳は、如来や菩薩たちでさえ語り尽くせない無限のものである、ということを述べた上で、そのような無限の功徳を語りつくすことなど出来ないけれども、不動の信心によってそれを若干述べてみたい、という意思を表明しているものである。聴聞の要請部分では、ジェ・ツォンカパ大師の功徳を礼讃する美辞麗句そのものが、美しい華鬘となりそれを耳にする賢者たちの耳飾りとなり、既にある福徳もさらに増大させるきっかけとなればよい、という表現である。本詩篇は、ジャムヤンチュージェがデプン大僧院で弟子の要請によって記したものであるが、恩師の功徳を述べる言葉が弟子をはじめ、篤信の解脱を求めんとする人々の福徳を増大すればよい、という祈りを込めたものである、ということをここでは表現している。本詩編の現行本は、ジェ・ツォンカパ大師著作集に含まれるものであり、その書名は『至尊師ロサンタクペーペルの秘密行状記請願』(東北蔵外 No. 5262)と題しており、ジェ・ツォンカパ大師の心のうちにあると高弟ジャムヤンチュージェが感じることが出来た精神的行状を師の大恩を思いながら祈る請願文という形で綴られていくものである。本記事ではこの珠玉の請願文を少しずつ訳出しながら、その背景を含めて紹介させて頂ければ幸いである。

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兜率五供・萬灯会

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