2021.06.29
སྟོན་པ་དེས་གསུངས་པའི་བསྟན་པའི་རྣམ་བཞག

釈尊が説かれた四部のタントラ

釈尊の行状とその教法(26):所化による分類(4)
クンケン・ジクメワンポ著/編訳:野村正次郎

作怛特羅

作怛特羅には六つの種族がある。すなわち如来族、蓮華族、金剛族、五遊族・持宝族、世間族である。

このうち如来族には八部ある。種族の皇帝部怛特羅、種族の皇継者部怛特羅、種族の皇妃部怛特羅、種族の頂厳部怛特羅、種族の憤怒天や憤怒天女の憤怒部怛特羅、種族の皇使部怛特羅、種族の皇臣部怛特羅、世間部怛特羅である。種族の皇帝部怛特羅とは『三三昧耶荘厳王』である。種族の皇族部怛特羅とは、『文殊師利根本儀軌』である。種族の皇妃部怛特羅とは『摩利支天』や五種天女などである。種族の頂厳部怛特羅とは『仏頂尊勝陀羅尼』『無垢仏頂尊勝陀羅尼』『白傘蓋仏頂陀羅尼』などである。種族の憤怒天や憤怒天女の憤怒部怛特羅とは『憤怒明王儀軌秘密怛特羅』や『王幢頂荘厳』などである。如来族の家臣・女官たちの皇使部怛特羅とは『金剛善門陀羅尼』『金剛怨霊怛特羅』などである。如来族の皇臣部怛特羅とは『黒天女一百八名陀羅尼』などである。如来族の世間部怛特羅とは『宿曜母陀羅尼』などである。

また蓮華族には、蓮華族の皇帝部の怛特羅、蓮華族の皇継者部の怛特羅、蓮華族の皇妃部の怛特羅、蓮華族の憤怒部の怛特羅、蓮華族の皇使部の怛特羅の五部がある。蓮華族の皇帝部の怛特羅とは『無量寿慧経』や『不死太鼓陀羅尼儀軌』などである。蓮華族の皇族部の怛特羅とは『大悲蓮華網』『不空羂索怛特羅』などである。蓮華族の皇妃部の怛特羅とは『多羅一百八名陀羅尼』などである。蓮華族の憤怒部怛特羅は『馬頭明王七十品』や『葉衣山林母陀羅尼』などである。蓮華族の皇使部の怛特羅とは『不退転大力経』や『大吉祥天女経』などである。

金剛族にも、皇帝部の怛特羅、皇継者部の怛特羅、皇女部の怛特羅、憤怒部の怛特羅、皇使部の怛特羅の五部がある。皇帝部の怛特羅は『一切悪趣清浄阿閦陀羅尼儀軌』である。皇継者部の怛特羅は『金剛地下怛特羅』や『降魔怛特羅』『金剛摧破陀羅尼』などである。皇女部の怛特羅は『火炎燃焼陀羅尼』などのことである。憤怒部の怛特羅は『甘露軍荼利』のことである。皇使部の怛特羅は『大力明王陀羅尼』『金剛羊怛特羅』『金剛鐡嘴陀羅尼』『金剛雷嘴陀羅尼』などである。

また五遊族の怛特羅は『宝帯陀羅尼』などがある。持宝族の怛特羅は『宝賢陀羅尼儀軌』などであり、世間族の怛特羅は『明呪王大息』などがある。

以上の作怛特羅のすべてに共通した怛特羅として『秘密総怛特羅』『蘇悉地羯羅怛特羅』『蘇婆呼童子請問経』『後禅定品』などがある。

行怛特羅

行怛特羅には、如来族、蓮華族、金剛族の三族があり、如来族は『大毘盧遮那成仏神変加持経』(『大日経』)、蓮華族は『馬頭怛特羅広品』、金剛族は『金剛手灌頂怛特羅』である。

瑜伽怛特羅

瑜伽怛特羅の根本怛特羅は『真実摂経』であるが、これに続いている怛特羅で釈怛特羅であるものが『金剛頂経』『吉祥最勝怛特羅』『悪趣清浄怛特羅』などである。『真実摂経』には四品があり、金剛界品、降三世品、遍調伏品、義成就品がある。初品は如来族で、第二品は金剛族で、第三品が蓮華族で、第四品が宝族である。如来の種族は五種族あるがここで四品しかないのは何故かといえば、これについてブッダグフヤは「所化の志を完成さえるために、各々の行法の点から宝族があり、所業となる羯磨の点から羯磨族がある、とするのである。」と解釈している。

無上瑜伽怛特羅

無上瑜伽怛特羅には、父怛特羅、母怛特羅の二つがあり、このうち父怛特羅とは、「瑜伽男尊怛特羅」、「方便怛特羅」、「空行父怛特羅」というのと同義である。母怛特羅は、「瑜伽女尊怛特羅」、「智慧怛特羅」、「空行母怛特羅」というのと同義であり、これらは別名である。

父怛特羅の殊勝性について、過去のチベットの学者の学説は多くの異説を唱えている。しかしながら自説としては、「方便・智慧が不二である怛特羅」という場合における「方便」と「方便怛特羅」という場合における「方便」との二つの名称は名称としては同じものであるが、意味しているものが異なったものである。というのも、前者の場合は空性を証解する知を表しているが、後者の場合には楽空無差別の智慧のことを表しているからである。

しかるに、如来の色身と対応する浄・不浄の幻身について言及して説明をすることなく、法身に対応する因たる倶生起の楽により空性を証解する楽空無差別の智について言及して説明をしている無上瑜伽の本体、もしくはこの部に属す怛特羅、これが母怛特羅の定義である。この定義基体としては、具体的にはたとえば『呼金剛怛特羅』や『勝楽怛特羅』があげられる。

一方、法身に対応した因たる楽空無差別の智に言及しながら説明をしており、同時に色身に対応した幻身の成就法について言及し説明する無上瑜伽怛特羅の本体、もしくはこの部に属す怛特羅、これが父怛特羅の定義である。定義基体としては、具体的にはたとえば『秘密集会怛特羅』や『金剛手大輪怛特羅』などがある。

過去のチベットの学者のなかには『時輪怛特羅』のことを「不二怛特羅」としてそれは「父怛特羅でも母怛特羅でもないものである」と主張しているが、自説としては、無上瑜伽怛特羅である限り、それは必然的に不二怛特羅である、ということになる。

また無上瑜伽怛特羅部の聖典の数量についても、その独自な教義で述べるのならば、これは善逝だけにとっての知の対象であるので、一般的な者が数量を計上することなど不可能である。しかし怛特羅部のなかには、特定の所化にとって必要となるだけの数量が説かれている。たとえば『勝楽生怛特羅』では、

瑜伽怛特羅の数量は、六千万が定数であり、同様に瑜伽女の数量も十六千万数えられる。

Śrī-Mahāsaṁbarodaya-Tantrarāja-nāma. KD373, 291a3.

と説かれているのであり、また『金剛心髄荘厳怛特羅』では、

秘密集会は一千である。金剛鬘は三十万である。密意授記は四千である。四天女請問は百七十である。最勝怛特羅は二百八であり、その釈怛特羅たる大三昧耶は五十五である。五金剛集会は一千であり、集成は、千である。平等勝は二百十であり、月秘密滴は七千である。金剛地下は百二十であり、宝冠金剛は七百五。憤月滴は五十万で、金剛勝は九十万である。平等秘密は五千であり、金剛秘密荘厳は五千である。摩尼秘密滴は十万であり、毘盧遮那神変は千百である。金剛秘密荘厳は一千であり、金剛骸骨は二百八である。真実は七百億であり、三昧耶現荘厳は三千であり、勇猛文殊は一十万であり、大秘密集会は百五十である。時滴は百八十であり、天女説法は五百七である。これらは意図するものが異なっているので、私は正しく説明したい。これは両者がお互いに交合している怛特羅の分類を説いたものである。

Śrī-Vajrahṛdayālaṁkāra-Tantra-nāma. KD451, 51a4

とも説かれているのである。

チベット仏教の後伝記の幕開けに活躍した翻訳官ロツァーワ・リンチェン・サンポが活躍した北インド・スピティのタボ僧院
タボ僧院にはリンチェン・サンポが活躍した時代の壁画が現在も残されている

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