2022.08.02
ཀུན་མཁྱེན་བསྡུས་གྲྭའི་རྩ་ཚིག་

確定してゆかねばならない規定の全体

クンケン・ジャムヤンシェーパ『仏教論理学概論・正理蔵』を読む・第30回
訳・文:野村正次郎

確定してゆかねばならない規定は

実体法と抽象法 対立者と関係者

普遍と特殊 定義と所定義 因果

有と無の証解 肯定・否定の反定

肯定否定遍充、否定基体 計算法

先後拘束法 循環式の十三項目である。

本書は、有法という分類の基盤となるものが何であり、それを分類すれば、有為法・無為法、自相・共相、世俗諦・勝義諦、有漏・無漏、善悪無記などに分類できるが、諸法と諸法とがどのように関係しているのかということを確定すべき内容として示しており、ここではその全体像は十三項目より分析することができるとしている。各項目の内容は次の詩頌以降説明されるものであるので、この全体について若干補足しておきたい。

ジャムヤンシェーパはこの十三項目の内容も含めて、合計二十七章よりなる仏教梗概集「ドゥダ」(བསྡུས་གྲྭ་)とし、直弟子セー・ガワンタシー(ཐུགས་སྲས་ངག་དབང་བཀྲ་ཤིས་)は、本偈に基づいて仏教概論の章立てとして、問答法の入門である①「白赤顕色」、②有無の証解、③客体・主体、④抽象体の確認、⑤同一者・別異者、⑥対立者・関係者、⑦帰謬法概論、⑧遍充式提示法、⑨肯定否定とその反定、⑩自相・共相、⑪普遍・特殊、⑫定義・所定義、⑬因果概論、⑭否定基体と第六格助詞、⑮遍充八門、⑯実体法と抽象法、⑰事前承認形式、⑱因果詳論、⑲否定・肯定、⑳他者排除、㉑排除志向・同定志向、㉒帰謬法詳論、㉓三世規定、㉔言語表現、㉕対立者・関係者詳論という二十五項目としているが、この二十五項目に加えて、㉖証因論理学、㉗精神心理学の二つを加えて合計二十七章とするのが、ジャムヤンシェーパ師弟の見解であり、『セードゥダ』(སྲས་བསྡུས་གྲྭ་)では、抽象体の確認についてはチャパ流のものと自説のものとを章を分けて説明し合計二十六章の著作となっている。

この『セードゥダ』加えてにジャムヤン・チョクラウーセルの著した『ラトゥー・ドゥダ』(རྭ་སྟོད་བསྡུས་གྲྭ་)、クンケン・ジャムヤンシェーパのドゥダ著作群を合わせたものを、基本テキストとして、これをゴマン学堂では、(Ⅰ)白赤顕色、(Ⅱ)顕色上級、(Ⅲ)梗概中級、(Ⅳ)梗概上級という四学級よりなる仏教梗概のクラスで学び、その後に(Ⅴ)証因論理学、(Ⅵ)精神心理学の二学級があり、この合計六学級六年間が学僧の基礎教育として課せられている。第七年次の学級は現観荘厳論七十義のクラスであり、その後十年十学級を進級して学堂での顕教教育課程の履修が修了する、ということになる。第七学級・現観荘厳論七十義より以前のクラスは、地方僧院などにもそのクラスがあり、必ずしもゴマン学堂で履修しなくてもよく、ラブラン・タシキル僧院やラダックやモンゴルやロシアの僧院などで出家してこれらの(Ⅰ)から(Ⅵ)までの学級を学び、第七年次現観荘厳論七十義のクラスから編入できる。

とはいえ、各地方僧院での教育の質が異なることや、僧院に在籍する僧侶の数によってクラスメートとどの程度問答ができるのか、という個人差もあり、さらにはゴマン学堂に設置しているゴマンスクールでは、通常の学校教育のプログラムも併設してチベット語の国語力があったり、基礎教養などがあったりするので、ゴマンスクールから入りなおす僧侶も多いし、化身の認定を受けたラマたちは、地方僧院では先代のラマの関係者から手ほどきを受けている場合もあるので、ゴマンスクールから入り直さないこともあるが、いずれにしてもダライ・ラマであれ、他の高僧の化身であれ、(Ⅰ)から(Ⅵ)までの問答法苑で問答する内容は少なくとも習得しておかなければ、一律第七学級から履修する学習内容を十分に理解できないので、ゴマンスクールなどに行かなくても、(Ⅰ)の学級から履修する者も多いのが現状である。

このような事情もあり、(Ⅰ)から(Ⅳ)までの仏教梗概のクラスと(Ⅴ)証因論理学、(Ⅵ)精神心理学の二学級で学ぶ内容については、その簡略版を近年では亡命政権の公式な国語教育のなかに一部取り入れており、僧院で学んでいなくても、義務教育を終えるまでの間、チベットやヒマラヤ地域の子供たちはディグナーガ、ダルマキールティが大成した仏教認識論・論理学の体系を基礎教育として学んでおり、各学校で学んでいるこうした論理学の伝統を、さらにゲルク派の本山の僧院でスクーリングなどに参加し補習的に学んでいる者たちも多い。

デプン・ゴマン学堂などの三大僧院で、仏教梗概や証因論理学、精神心理学を学ぶ者たちの多くは、ゲルク派全体で開催される冬季の論理学の大法会(ジャンクンチュー)に参加し、そこではダルマキールティの代表的な著作である『量評釈』(Pramāṇavārttika)を中心とし、ディグナーガの『集量論』(Pramāṇasamuccaya)およびダルマキールティの七部の論理学書について集中的に一ヶ月半の間、問答法苑に繰り返し参加して、何年かかけてディグナーガ、ダルマキールティが大成した仏教認識論・論理学の体系をマスターし、論理的な思考力と認識の構造などの基礎知識を身につけてゆく。

弊会のようなゴマン学堂の支部でも、ある程度の数の学習意欲のある人たちが整えば、こうした仏教認識論・論理学よりなる仏教を専門的に学ぶ上での基礎学習課程を設置することができるだろうが、その指導者は本山から常に派遣可能な体制にはあるので、将来的には、日本で仏教認識論・論理学の基礎をマスターするためのクラスが開講され、第七年次現観荘厳論七十義のクラスから正式に編入できる日本からの留学僧を輩出できるようになる時代も夢ではないであろう。次の詩頌からはこれらの13項目が如何なるものなのかを紹介したい。

化身ラマであろうとも特別ではなく、クラスメートの問答に正しく答えなければならない

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