作成日: 2010-09-17 最終更新日: 2016-01-20 作成:LOBSANG DROLMA

【ゲンの涙】

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チベットのお坊さんたちは、ゲシェーの学位を取得するためには、学堂での勉強課程を終了した後に、セラ寺、デプン寺、ガンデン寺で毎年順番に回って行われる試験を6年間受け続けなければならない。ゲルーギュトゥと呼ばれるこの試験は、今まで寺院で学んできたことの総仕上げであり、日本の大学受験以上に過酷を極める。ちょうど先月がその試験の開催期間だったが、アボさんの弟さんもこの試験を受けておられる最中である。

今龍蔵院に一人でおられるゲンチャンバはこの試験にちゃんと合格し、ゲシェーの中でも最高のララムの学位を納められた。このゲシェーの学位を取得する試験は超過酷である。どれくらい過酷かと言うと、

「寺の中でゲルーギュトゥの試験を受けている人がいると、すぐにわかるよ。ご飯を食べる間も惜しんで勉強してるし、猛勉強して外にもあまり出ないから、顔色悪いしね」

この試験は2回落ちると二度と再試験を受けることができない。この試験に合格し、見事ゲシェーとなるためみんな寝る間も惜しんで勉強する。すると中には勉強のしすぎでおかしくなる人もいるらしい。

「ゲルーギュトゥの試験のせいで口がくけなくなってり、眠れなくなったりする人はたまにいるよ。勉強のしすぎだね」

さすがに試験勉強に悩んで自殺する人はいないらしいが、勉強のしすぎでおかしくなる人はいるらしい。寝ても覚めても勉強、勉強。大変である。

「実は私もゲルーギュトゥを一年休んだことがあるよ」

とゲンチャンバ。
いつも陽気なゲンチャンバが勉強のしすぎでおかしくなっているのは想像ができないなと思っていると、

「試験を受けるまさに前夜、チベットの実家から電話がかかってきたんだ。母が亡くなったという訃報だった。故郷の兄弟たちは、私が試験を受けていることなんか知らなかったから母の死を伝えようと思って電話をくれたんだ。それから勉強に全く集中できなくなって、毛布をかぶって一人泣いたよ。みんなは『どうしたんだ、どうしたんだ』と訊いたが、答えることもできなかった」

ゲンチャンバの故郷はチベットのカムである。インドに亡命してきているゲンチャンバは中国のパスポートを持っていないため、母の訃報を聞いても、故郷に戻ることは出来なかった。

「ゲルーギュトゥの試験は過酷だ。生半可では合格できない。私の意識は母の死にとらわれて勉強どころではなくなったから、一年間受験を延期することに決めたんだ」

チベットの僧侶に癒しを求める人は多い。それはある一面としては確かに正しいが、勉強に関していうと、彼らは癒しとはほど遠い、むしろ体育会系の中を戦い抜いてきた猛者である。
心が揺れた状態で太刀打ちできるほどあまい世界ではない。

そんな勇ましい僧侶の中で勝ち抜いてこられたゲンロサンが今秋来日される。さて、どんな講義のされるのか、今から楽しみである。