2020.09.24
ལེགས་པར་བཤད་པའི་ཆུའི་བསྟན་བཅོས་ལུགས་གཉིས་རླབས་ཕྲེང་བརྒྱ་ལྡན་

機密保持と暗号化は、すべての人の安心と安全を保証するためのものである

『水の教え・波打つ数の二つの教え』を読む・第129回
訳・文:野村正次郎

持金剛によって善く説かれた

秘密真言の力は不可思議である

ガンガーと呼ぶだけでも

神の河を引き寄せられる

129

果金剛乗は秘密真言乗とも呼ばれ、この実践とは無関係な者には決して開示することない機密事項を秘匿した状態を保持しながら、通常私たちの精神に現れてくる現象とその影響による思考から精神を保護するためのマントラ、すなわち真言という暗号化された特殊言語を用いて、様々な活動を行うものである。そしてその活動の及ぼす影響力というのは、時にはさまざまな物質にすら介入することができる強力なものであり、たとえばガンガーという女神の名を呼ぶかける真言を用いるだけで、瓶のなかの水にガンジス河の水と同じ成分である女神ガンガーの水と一体なるものへと変化させることが可能となる。本偈はこの密教の不可思議なる功徳を説いているものである。

果金剛乗、秘密真言乗、密教と呼ばれるものは、この言葉そのものが、その実践の内容を物語っているものであり、単に仏教のなかには開示された教えである顕教・秘匿されている密教という分類があるという話ではない。これらを理解するためにはまず、何故秘匿され機密状態を保持しないといけないのか、ということと何故通常の私たちの精神に現れる現象や思考から自分たちの精神を守らなくてはならないのか、というその理由を理解することが極めて重要であるので、これについて少しだけ考えてみたい。

まず「秘密」ということであるが、これはある特定の資格のある者で、機密を保持する契約に同意した者以外には、知りうる情報を開示してはいけない機密情報を取り扱っているということである。実は機密保持の精神は、その機密を知り得る者にとっても、その機密を知らないで済む者にとっても双方にとって利益のものである。

たとえば今日の状況を考えてみるのならば、新型コロナウイルスに対するワクチンを開発するプロジェクトが世界中で行われているが、これに関わる者は様々な機密を保持していなければならない。ワクチンの開発には、新型コロナウイルス自体を意図的に培養しなければならないので、まずウイルス自体が大量に必要である。このウイルスの培養に従事している人が、「私はウイルスを培養して大量生産しています」という情報を、一般の人たちにも知らしめなければならなけばどうなるだろうか。その人は電車に乗るし、普通に買い物にも行きたいだろう。しかしながら首から「私はコロナの生産者です」ということを大きく書いたプレートを下げて街を歩いてたら、大きな差別に合うだろう、電車にも乗れなかったり、公園で休憩していたら、何も分からない悪意をもったものたちに、暴力を振われる可能性がある。そしてその仕事に従事している人の子供は学校で差別を受けたり、いじめられたりする可能性も十分にある。ウイルスを培養するのは、ワクチンを開発するためであり、ワクチンを開発するのは、人類がこの感染症を克服するためであるので、ワクチンを培養している人間の個人情報は開示すべきであり、その人は感謝されたり称賛されるべきである、といった理想論を述べたとしても、偏見をもとうとする人たちにはそれはまったく通用しない。社会的差別や謂れのない暴力は良くないことは誰でも知っているが、そのことを根絶することはできない。だからこそ、人類のために、ワクチンを開発するプロジェクトに関わっている人たちが、そのことに関わっていることを開示するべきではないし、大量に培養しているウイルスは決して研究室から流出してはいけないし、その培養所を特定できるような情報はなるべく開示してはならないのである。

また別の例で考えてみるならば、今日我々はインターネットバンキングを利用しているが、このログイン情報やパスワードなどがすべて誰にでも開示されないといけないものであったとしたらどうなるであろうか。「すべての秘密は特権を生み出すので悪である」といった乱暴なことを考える者であっても、自分の個人情報をすべて万人に開示したいという人などいないであろう。すべての人の倫理観を信じたいという発想は、悪くはないものであるが、現実的にはそのためにすべての情報が誰にでもアクセス可能であるということは、現実的に不都合なことが多く起こるのであり、そのための対策をし続けなければならないという大変厄介なことになるのである。

このように機密保持というのは知り得る者にとっても、その機密を知らないで済む者にとっても双方にとって利益のものであり、機密保持がなされている状態では、通常の私たちの常識では理解できないような「ウイルスの培養」のようなことが可能になる。そしてこのウイルスの大量培養に成功し、ワクチンの開発に成功し、それが何段階か進んだ臨床治験によって偽薬との対比や他の薬品などとの併用などによる副作用などの実証実験が終わり、ワクチンの大量培養に成功し、それが広く人類に供給されることができるようになれば、いまのこの新型コロナウイルス感染症の問題を完全に人類は克服できることになり、毎日毎日マスクをつけて歩く必要もなく、昨年までのように大勢で集まって楽しく歌を歌うことができるようになるのである。いま私たちが見ている現実とはまるで異なる楽しい世界が待っているのであり、この効果は凡人の想像を絶する規模になるのである。

ワクチン開発のための機密保持というものを、これを商売のためであるとか、企業間の利益競争であるとか、国家間の利益競争である、特権をつくるためのものである、といった見方をすることもできるのは確かである。ウイルスを培養している科学者がある日、魔に取り憑かれ、大量にウイルスをばらまいたりすることがあるかも知れないのでやはり機密はよくない、という意見もでるだろう。しかしこのように心の貧しいものの見方しかできないのは、なんとも悲劇ではないだろうか。

私たちは何かに善意をもって真摯に取り組むその取り組みを悪意をもって見るべきではないだろうし、そのようなお互いの猜疑心に満ちた修羅の世界に暮らしたいと思う人はいないはずである。現実の私たちの社会においても、この機密保持の精神は自他双方の利益のためであり、仏教における密教の機密保持の精神もまた自他双方の利益を守るために必要なものである。

密教を学んでいい器となるためには、輪廻に対する出離心・一切衆生利益のために仏位を目指す菩提心、縁起と空を理解する精神が必要である、という要件が課せられているのには、理由があるのであり、その要件は機密保持の精神を正しく理解し、利他を優先する姿勢にブレがないことを保証するものなのである。機密保持の精神は、基本的には利他を優先し、自他双方の利益を守り、安心して安全に暮らすためのものである。

24時間365日超高速で稼働し続けている機密保持されたデータセンターは、私たちの日常生活を守っている

RELATED POSTS