2020.04.21
ལེགས་པར་བཤད་པའི་ཆུའི་བསྟན་བཅོས་ལུགས་གཉིས་རླབས་ཕྲེང་བརྒྱ་ལྡན་

一目散に逃げ出すウサギたちにならないために

『水の教え・波打つ数の二つの教え』を読む・第27回
訳・文:野村正次郎

賢い者は真偽を分析するだろう

愚かな者は聞いた噂で翻弄される

水にチャルと音がするだけで

山林の獣の殆どが逃げ出したように

27

昔ある森の中にベールの樹が生えており、池のほとりに六匹の兎が住んでいた。兎たちはいつもその池に水を飲みにいっていたが、あるときベールの果実が大きく実り、樹から落ちそうになり枝ごと折れて、池に落ちて、チャル、チャル、という大きな音を立てた。この音を聞いた兎たちは、恐ろしい動物がやってきたのだと勘違いして、怖がって急いで池のところから一目散に逃げ出したのである。

兎たちが一目散に逃げていく姿を今度は狐が見て「一体どうして逃げているんですか」と聞いた。兎は「チャルの音がした。チャルが来た」と説明したので、それを聞いた狐たちも慌てて逃げ出すこととした。その狐たちの逃げる様子を見た猪たちもまた狐に同じように聞き逃げ出して、水牛、犀、象、熊、豹、虎、ライオンに到るまで多くの動物たちが同じように逃げ出した。それを見たらおおきな鬣のあるライオンが逃げているライオンに「君たちみたいに鋭いつめや牙のある者たちが逃げ出すとは一体何事が起こったんだ」と聞いたところ「チャルが来たんですよ」と答えるので、「そのチャルってのはどこにいるんだ」と聞いたところ「よく分からないが虎が言うので私たちも逃げているんです」と言うので、今度は虎に聞いてみるが「チャル」が何なのか知らず「豹に聞いた」としか答えない。そこで豹に聞き、と噂の発端を探っていくと兎たちにたどり着いた。兎に聞いてみたところ「私たちは実際にチャルの音を聞いたんですよ。こっちに一緒に来てください。チャルを見せてあげますよ」そう答えるので、兎について行ったところ、ベールの樹が池に落ちてチャルと音を立てているのを発見した。ライオンは兎に「これはチャルという生き物ではないので、恐れる必要はありません」そういって獣たちは全員安心することになったのである。

これが「水にチャルと音がするだけで、山林の獣の殆どが逃げ出した」という部分で譬喩として挙げられている「チャル」の音の話であるが、この話はチベットでは大変有名な童話として「うさぎ、チャルに驚く」という名称でよく知られているが、この話は元々は『律分別』(1)に由来するものである。この話は釈尊がアーナンダに告げて語ったもののひとつであり、この時の大きな鬣のあるライオンは私の前世である、と釈尊が語っているように、人がこう言っているから、ということで妄信するのではなく、自らの分析力によって分析して検証することの大切さを律でも説いているのである。

賢者は何か物事をはじめる時に、そのものがもつ利点と欠点を客観的に考察し、様々な情報から真偽を分析し、危険管理をしっかりとしながらそれに取り組む。これに対して愚者は、大多数のものたちが根拠もなく噂している通念や噂に従って行動する。通念や噂に従って行動する者の危険性は前回もあったが、ここでは聞いただけでは不充分であり、聞いた内容を論理によって分析し考察することの重要性を説いている。ジャムヤンシェーパによれば(2)、聞思修の聞とは言葉とその意味内容に対する確定が起こることであり、思とは、その意味内容について更に四種道理などで考察することを指している。ジェ・ツォンカパも究極的には正理によってのみ確定するのであって、教説で説かれているということだけでは不充分であるとする(3)。チャルの音の例は非常にわかりやすい話ではあるが、実際には他人から聞いた情報を無批判に採用するのでは不充分であり、自己の知性と正しい論理によって、教義の内容を分析した上で確定に至ることの大切さを仏教は説いている。

ウサギの最高速度は時速80kmくらいである

本記事は現在世界的に拡大している新型コロナウイルス感染症の早期終結を祈願し、毎日1偈チベットの箴言を翻訳して連載して、配信しているものです。

注釈   [ + ]

1. ‘Dul ba Vol. Ja,287a, 『根本説一切有部毘奈耶』大正卷第三十八
2. ཐོས་བསམ་སྒོམ་གསུམ་གྱི་རྣམ་བཞག་
3. 『了義未了義・善説心髄』

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