2020.06.16
ལེགས་པར་བཤད་པའི་ཆུའི་བསྟན་བཅོས་ལུགས་གཉིས་རླབས་ཕྲེང་བརྒྱ་ལྡན་

瑠璃色の地球を捨て、何処か別の星に行かなくてもいい

『水の教え・波打つ数の二つの教え』を読む・第85回
訳・文:野村正次郎

このような教えに逢いながら

似非なる道へと誰が向かうのか

神の水流ガンジスの源で

石灰の井戸を誰が掘るのだろう

85

人はみな出逢うべき時に、出逢うべきものに出逢う、という。その出逢いをどれだけ大切にし真摯に受け止めるのか、それはその人間の力量次第である。私たちは幸いにして仏教に触れることができ、その教えは、どのように行動し、どのような言葉を発し、どのように思考すればよいのか、という指針を示すものである。その指針に則ってすべての所業に取り組むのならば、どのような善き結果が生み出されるのか、その指針に反し、煩悩に任せて生きるのならば、どのような悪しき結果が生み出されていくのか、これらのこともまた示されている。

この道標が示している目的地は、解脱と一切相智という誰しもが理想とし希望とする場にほかならない。そこへの道標を示しているのは近所の御老人なのではない。それは釈尊によって示された道標であり、その道標を更に我々が道に迷わないために詳しく補強する形で祖師たちによって、懇切丁寧に私たちに対して既に説明されている。

そのような道標を無視して、どこか別のところに行こうとしたり、何か余計なことをする必要があるだろうか。それは神の水であると言われる最高の飲料水であるガンジス河の源流で、石灰だらけの大地に濁った水しか出てこない井戸を掘ろうとするくらい愚かなことである。本偈ではこのことを説いている。

人が正しい道ではなく、間違った道を進もうとしたり、間違った場所に行こうとしたりするのは、私たちの煩悩と業による営みである。私たちは無駄なことを愛しており、失敗を喜ぶ傾向にある。本来行くべき道があろうとも、何か変わったことをしたいと思う。充分に恵まれた環境にあり、充分に恵まれた生活をしていても、そこに違和感を感じて、何か別のことをしようとする。それらは人の性であり、その性は無始以来の業の積み重ねによって培われてきたものであるので、いますぐに変えろと言われてもなかなか変えることができないことも確かである。しかしそれらの前人未踏の道を歩もうとすることは孤独な旅路となるだろうし、自己愛をなるべく排除しようとしながら、その道へと進んでも、最終的には自分と自分の大切にしているものを破滅へと導く結果にいたることも多々あるのである。

今日私たちが住んでいる現代の社会は、多くの善意と努力の結果、物質文明に関していえば、かなりの発展を遂げている。かつては数日で腐敗してしまう食料品も冷蔵庫で保管することができるし、水道の蛇口をひらけば飲むことのできる水がでてくる。夜になると電気をつければ明るくなるし、遠く古い古典の仏教書もインターネットなどで公開されている。動画共有サイトには、世界中の様々な言語で話している人の様子が窺える。代替肉のようなものは無限にあるし、三度の食事も自宅まで配達してくれるサービスもある。圧倒的に私たちのいま住んでいる環境はかつてないほど充実しているのである。厳格な戒律主義を貫き通して生活することは、かつてないほどに簡単であり、かつてないほどに私たちは諸仏たちの言葉を身近に感じることができる環境に暮らしている。

私たちが諸仏の教えと出逢いながら、その教えを実践していないのは、その出逢いのひとつひとつのことを大切に感じられないからなのだろう。そしてその出逢いのひとつひとつのことを大切に感じられないのは、それに関わる様々な善なる営為の恩恵を受けていることに対する想像力の欠如に由来する。そしてこの想像力の欠如は、私たちが出逢っているこの教えや教えを説いた人々を通りすがりの見知らぬ人のように扱わせている。

しかしふと静かに、この私たちが出逢っているものは、如何に巨大なものなのか、如何に無限の価値があるものなのか、それを想像してみるとよいだろう。そこには偉大なる人々がいて、希望があり、夢があり、理想がある。美しく、面白く、そして楽しく雅びな自分の人生が開けている。

我々が思っているよりも、それらは遥かに素晴らしいものであり、我々が思っているよりも、この人生は面白くなくも、捨てたものでもない。なので決して自暴自棄になる必要もなく、絶望する必要もなく、孤独を感じる必要もない。私たちが出逢っているいまのこの出来事のすべてのことの素晴らしさは、日常の喧騒のなかで静かに立ちどまり、静かに真摯に想像力を膨らませると感じられるだろう。

私たちは瑠璃色の地球に住んでいる

本記事は現在世界的に拡大している新型コロナウイルス感染症の早期終結を祈願し、毎日1偈チベットの箴言を翻訳して連載して、配信しているものです。


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