作成日: 2016-11-02 最終更新日: 2016-11-02 作成:野村 正次郎

【新刊案内:『ツォンカパの思想と文学ー縁起讃を読むー』】

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ジェ・ツォンカパ・ロサンタクパ(1357-1419)はゲルク派の宗祖であると同時にチベット仏教最大の思想家である。彼の著作集は18巻あり、最近はインターネットで電子書籍や電子テキストとしても出版されているが、そのすべての著作の中でも『縁起讃』は、もっとも大切なものである。

『縁起讃』はツォンカパが文殊菩薩から直接教えを受けたものを元に、「縁起」という仏教の根本の思想を説いた釈尊を、縁起という教えを説かれたことを元に讃嘆した詩篇であるが、この詩篇に表現されている縁起と無自性空の境地は、深淵で『縁起讃』それ自体を子供たちが暗唱していたのを聞いたチベットの学者たちがナーガールジュナやチャンドラキールティが書いた著作ではないかと聞き違えるほど深淵なものであったと言い伝えられている。

弊会でもお世話になっている根本裕史先生が、この度長年にわたる『縁起讃』に対する翻訳研究を一冊の書物として上梓されることになった。根本先生は、広島大学の大学院に在学中より、東洋文庫を退職して以来再び2001年に来日されたハルドン・ケンスル・リンポチェ師、2010年から来日されたクンリン・ヨンジン・ゲン・ロサン師から多くを学び、デプン・ゴマン学堂にも2年間ほど留学され、またインドの古典語であるサンスクリット語にもよく通じ、最近は広島大学の准教授として再び広島に戻ってこられて、学生の指導を行っておられるだけではなく、日本別院でも通訳や解説などをよく行っていただいている。

この度上梓された『ツォンカパの思想と文学』は、2011年に出版された『ゲルク派における時間論』に続き二冊目の本格的な研究書であるが、ツォンカパの思想を、伝統的な哲学、論理学、修行論だけに留まらず、インド仏教からチベット仏教へと継承されている詩学をも含めて考察されたものである。この新しい研究方法そのものが、現在の仏教学におけるツォンカパ研究の最高水準を一歩進めたものであることは言うまでもない。

内容
第一部:
第1章 縁起とは何か
第2章 自性と無自性
第3章 縁起証因による空性論証
第4章 『縁起讃』の文学世界
第二部:『縁起讃』訳注
第三部:『白い光の連なり』訳注

ひろく仏教や東洋の思想に興味のあるすべての人が、チベット仏教の最高峰の学者の書いた最高傑作を現代の最高水準の研究者により著された成果を味わうことのできる珠玉の一冊である。特に本書が扱っているテーマは仏教の根本思想である縁起と空の思想であり、チベットの学僧たちがよく説くように本書を紐解くすべての人が、ブッダの教えの本質とは何か、縁起と空とはどのようなものなのか、ということを静かに深く考えることができるであろう。

『縁起讃』のポイントを根本先生にアドバイスするダライ・ラマ法王

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