0203 本尊観音菩薩の制作

下絵を書き終わるといよいよ砂で曼荼羅が描きはじめられる。
まずは真ん中に位置する本尊観音菩薩から描いていかなければならない。


砂曼荼羅の砂は石英質の石をすり潰したパウダー状のものが使われる。
この素材は日本では銀閣寺などの庭の砂に使われるものであり、自然の
光があたると反射してきらきらとひかり美しい光沢をもっている。
色とりどりの砂はアクリル系の絵の具で着色している。

もっとも高価な砂曼荼羅ではルビーなどの宝石などをすり潰して作られるのだが、
現在のチベットの状況などを考えると伝統的な素材を得ることが極めて困難である。
中国によるチベット支配は砂曼荼羅の素材にまで影響している。
チベットにはやく完全な自治が実現されないかぎり、この美しい砂曼荼羅の文化
さえ滅びてしまう危険性があることを痛感させられる。


まず東門の部分の蓮華の花びらを赤で描いたら、本尊である観音菩薩を
蓮華で象徴して描く。観音菩薩の真言である「オンマニペメフーン」が唱えられる。
砂曼荼羅制作のすべての過程のなかでもっとも緊張する一瞬。(右側が東門)

ひとりがすこし描いたらもうひとりが少し描き、バランスをとる。
お互いに呼吸のあった精密な仕事が要求される。
砂曼荼羅を描くときには基本的に絵は下から上へと描かれ180度逆の方向から描かれる。
この写真は真ん中の蓮華を描く途中で
東向きの蓮華の花びらの上に、さらに蓮華の花びらを描いているところ。


本尊と正面(東)を描き終わったところ。正面(東)の花びらには金剛杵が描かれる。
上の写真をみると分かるように逆さまから描いている。

八葉中台といわれるように、中央の蓮華の四方四維(東西南北・艮巽坤乾)に
蓮華の花びらが描かれる。これらは観音菩薩の手などを意味している。
それゆえに観音菩薩の持ち物である法輪や摩尼などが描かれる。

ほぼ中央の観音菩薩が完成したところ。最後に周りの円を描く。

砂曼荼羅の制作の期間中、
二人の僧侶は毎朝観音菩薩の我生起(ダクケー)を行わなければならない。
これは、単なる一介の僧侶が観音菩薩を描くのではなく、
描き手自身が智サッタを自分の心のなかに勧請(お招き)し、
自らが観音菩薩となり、自らの姿を描くことを意味している。
今回来日しているソーパ・ギャンツォ師(右)によれば、

「ぼくのようなその辺りにいるただのお坊さんが書いたものでは、
信仰の対象となるわけがないでしょう。
だから自分たちが曼荼羅を書いているときだけでも
一切衆生を救済するという誓いをたてた観音菩薩となり、
自分自身の姿を描くのです。ですので朝から夕方まではこんな自分でも
観音菩薩となって一切衆生を救済しようと思い続けていなければいけないんです。
もちろん夜疲れてだらだらしますが、
その時には観音菩薩であることをやめていますので
自分自身にもどりますが‥‥。だからその時はだらだらしても大丈夫なんですよ」

とのことである。つまり仕事中は観音菩薩だが仕事を終える、とただの人に戻る
という理屈である。


観音菩薩の宮殿の周りに五色の線を描いていく。

ひとつひとつの線を描くために、数回往復して砂を盛りあげる。

観音菩薩本体が完成したところ。手前が正面(東)


横からみると砂をもっているのがよく分かる。

(文責 野村正次郎)

←前の過程 次の過程→

トップへ