2016.07.02

チベットの伝統文化

「チベット」「チベット人」と聞いてまず何を思い浮かべるでしょうか?ここではチベットの言葉や文化、伝統、また一般的なチベット人たちの生活をご紹介します。

チベットのことばと文字

チベット語には口語と文語があり、両者は大きく異なります。

チベット語の口語には実に様々な方言があります。一般には中央チベット、とくにラサの方言が標準語のように扱われます。カムやアムドの方言は、ラサ方言とは大きく異なり、ラサの人とアムドの人では全く話が通じないこともしばしばあるのです。チベットのことわざに「谷ごとに言葉があり、先生ごとに教えがある」というものがあります。一方、文語はどの地域でもほぼ同じ言葉で書かれます。昔は日本でも出身が異なればお互いに話し言葉が通じなかった時代がありますが、それと似ています。

チベットの文字は7世紀、ソンツェン・ガンポ王によりインドへ派遣されたトンミサンボータが、当時のインドのブラフミー文字を基にして作ったと言われています。大別して、活字体のウチェンと筆記体のウメーがあります。

衣服

チベットの人たちが普段着ている衣服はチュパと呼ばれます。チュパの形や色、模様は地域により様々です。中央チベットでは、女性は長袖ブラウスの上に、このチュパ(袖無しのワンピース)を着ます。中央チベットの場合、ラサでは既婚女性はその上に縞模様のエプロンを付けます。ラサ以外の地方では、既婚未婚に関わらずこのエプロンを装着する場合があります。男性は、ブラウスなどの上に、日本の和服のような襟がついた前開きもので、和服のように襟を胸元で重ね合わせ帯を巻きます。アムドなどでは、女性もこの男性と同じようなチュパを着ます。

女性のアクセサリーも髪の毛につけるもの、耳飾り、ネックレスなど様々です。トルコ石や真珠、珊瑚などがよく使われます。カムの男性は、頭に「ダシェー」という赤や黒の布をまきます。

食生活

チベットの食文化の中でもっとも有名なのはバター茶でしょう。伝統的には「ドンモ」という細長い円形状の器具に、お茶、バター、塩を入れて混ぜ撹拌させて作ります。現在は手軽なミキサーもよく用いられます。味は、少し塩辛くバターの風味が強いお茶です。お寺や一般家庭で広く飲まれます。

チベットでは広く、「ツァンパ」というハダカムギを炒って粉にしたものを食します。日本の麦焦がしと似ています。バター茶、お好みで砂糖、チーズを混ぜ、手で捏ねて少しずつ小分けにしながら食べます。味は香ばしい風味がします。腹持ちが非常に良く、チベットではよく朝食として食されます。

チベットの食文化では、ヤク(牛の仲間)が多く用いられます。肉やヤク乳、ヤク乳からつくったバター、チーズなどです。肉はそのまま調理したり、干し肉にしたりします。バター茶ではヤクのバターが使われます。ちなみにチベット語では、「ヤク」というと雄、雌は「ディ」といいます。ディ(雌のヤク)と雄の牛を交配させた「ゾ」もよく飼われています。また、遊牧民は羊を食べることも多くあります。

お酒は、「チャン」というどぶろく酒がよく飲まれます。一部の地域の人は、ツァンパを食べる時にバター茶のかわりにこのチャンを使うこともあります。

「トゥクパ」は、チベット風の麺やお粥の総称です。一般的にトゥクパというと、卵を使わず小麦粉と水で作られた麺を指します。麺の形は細長いもの、またアムドやカムでは四角くちぎった「テントゥク」というものが一般的です。また「デートゥク」というのは、お米でつくったお粥です。チーズなどを混ぜて食べます。

他には、チベット風餃子「モモ」、チベットのパン「パレー」、スープカレーかけご飯「シャムデー」などが一般的です。お正月には「カプセー」というお菓子を作ります。またチベットには海がないため、一般的に魚介類を食す文化はありません。

住居

チベット人の住居は、農耕民か遊牧民かによって大きく異なります。

農耕民は土地に定住しそこに家を建てます。家は石やレンガ、ヤクの糞などを使って建てられます。伝統的な家の形状は四角く作られることが一般的で、多くは2階建てや3階建てとなっており、家の中心に中庭が設けられます。例えば3階建ての家の場合、1階では家畜を飼い、2階は住人の寝床、3階は仏間となることが多くあります。しかし現在のチベットでは現代的な家もあり、この限りではありません。

遊牧民は土地を遊牧しながら移動するため、解体と設置が容易なテントで暮らします。このテントは頑丈な布で作られ、小さなものもありますが、大きなものになると沢山の部屋がある100人以上の人間が居住できるものもあります。遊牧地域ではこの大きなテントで作られたお寺もあります。

人々の日常生活

朝起きると仏壇に線香と水を捧げ、お経を唱えます。朝食はバター茶もしくはツァンパなどを食べます。一般的にチベット人は朝食を多くは食べません。朝食を食べた後は、それぞれ仕事や学校に行ったり、家事をしたりします。農業を営む人は畑へ、遊牧を営む人はヤクや羊を連れて遊牧に出かけます。

夕方それぞれ家へ戻ってくると、家族一緒に夕食をとります。夕食には、伝統的にはトゥクパや干し肉が食されます。現在は家庭により様々な夕食が作られます。ときにはチベット料理屋で外食したり、他の国の料理を食べることもあります。

時に人々は巡礼の旅に出ます。聖地カイラス山、多くの有名な寺院があるラサなどがとくに有名です。寒さの厳しいチベットでは冬になると農耕民や一部の遊牧民は仕事ができなるため、その時期に長い巡礼の旅に出ることもあります。遠方から徒歩で五体倒地しながら、数ヶ月あるいは数年かけてラサにやってくる家族もいます。冬期のラサの街中は、様々な地域からやってきた多くの巡礼者で賑わいます。

芸能

チベットの楽器の中でもよく使われるのが「ダムニェン」です。形は琵琶に似たギターのようなものです。伝統音楽、現代音楽などで広く演奏されます。その他、二胡に似た「ピワン」や横笛「リンブ」などがあります。


寺院では、仏教の教えに基づいた僧侶たちによる宗教歌舞「チャム」があります。演目は種々あり、僧侶がそれぞれの衣装を着て踊ります。大きいオーボエのような「ギャリン」、ホルンのような「トゥンチェン」、シンバル「シルニェン」、太鼓「ガ」、鈴「ティルブ」などの楽器が使われます。これらの楽器は法要の際にも用いられます。

また劇団による伝統的な歌舞劇「アチェ・ラモ」というオペラもあります。「アチェ」は姉、「ラモ」は女神という意味で、舞っている女優がまるで女神のように美しいことからこの名が付いたと言われます。ラサではヨーグルト祭のときに、ダライ・ラマ法王の夏の宮殿ノルブリンカにてアチェ・ラモが舞われます。


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