作成日: 2017-02-16 最終更新日: 2017-02-17 作成:野村 正次郎

「チベットの物語を理解せずに、中国を理解することはない」〜チベット亡命政権ロブサン・センゲ主席大臣講演録

2017年2月14日、チベット亡命政権の主席大臣、執政(シーキョン)たるロブサン・センゲは昨年設立された「日本チベット国会議員連盟」に迎えられ、衆議院第一議員会館にて講演会を行われました。講演のなかでロブサン・センゲ首相は、チベットの物語を理解することは、中国を知ることであると説かれています。私たち日本人は、このチベットの物語を通じて、自分たちのあるべき姿勢を見直すことができます。仏教についても同じであり、チベットの仏教を知ることは、仏教そのものを知ることであると思われます。ご講演は英語で行われ、逐次通訳がありましたが、非公開で国会議員を対象に行われたものですが、事務局を務められました衆議院議員長尾敬先生の許可を得て、ここに新たに訳出しみなさまに公開します。(敬称略・文責:野村正次郎)

日本チベット国会議員連盟

亡命政権ロブサン・センゲ主席大臣講演会議事録

平成29年2月14日 午後2時より 衆議院第一議員会館・国際会議室

司会・進行:長尾敬・簗和生

司会

本日は、日本チベット国会議員連盟の主催にてチベット亡命政権ロブサン・センゲ主席大臣講演会を開催させて頂きたく思います。まず、ロブサン・センゲ首相を盛大な拍手をもってお迎えください。ようこそ。心から歓迎申し上げたいと思います。

昨年の12月14日に産声をあげたこの議連では、先だっては、ダライ・ラマ法王猊下をお招きしご講演頂きました。この度ロブサン・センゲ首相をお招きすることとなりました。実はこの会議室で、過去一度首相にもご講演いただいたことがございます。貴重なこの一時間、今日はどうぞ、みなさまと一時間を共にさせて頂きたいと思います。それではまずは議連の会長代行、衆議院議員、渡辺周先生に開会の辞をお願いします。どうぞよろしくお願いします。

渡辺周・会長代行

みなさんこんにちは。日本チベット国会議員連盟の会長代行を仰せつかっております、民進党衆議院議員の渡辺周です。本日の趣旨はいま長尾事務局長がおっしゃった通りで、お手元の資料には、ロブサン・センゲ主席大臣の経歴がございます。またロブサン・センゲ首席大臣におかれましては、本日国会の会期中ですので、大変失礼とは存じますが、途中参加、途中退出の議員もおりますことをまずどうかご了承頂きたく思います。

私たちは日本とチベットのこの議員連盟を発足して間もないですが、今後是非とも実のあるものにしていきたいと思い本日に望んでおります。そして本日の会をご縁として、これからの良き関係がスタートできるといいと思います。まずはロブサン・センゲ首席大臣、心から歓迎を申し上げまして、開会のご挨拶とさせて頂きます。本日は、みなさまよろしくお願いいたします。

司会

渡辺会長代行ありがとうございました。それでは連盟の会長、下村衆議院議員からご挨拶賜りたいと思います。会長、どうぞよろしくお願いします。

下村博文・会長

本日はロブサン・センゲ首相、ありがとうございます。日本にお越しいただいたこと、そしてこの議員会館、この国際議場におきまして、お迎えできたことを嬉しく思います。そして、国会議員の皆さんも今日は50人、本議連に出席予定で、まだ若干少なめですが、皆さま方に感謝申し上げます。

日本チベット国会議員連盟は、他の国の友好議員連盟とは若干性質が異なります。チベットの政権は現在亡命中で、我々はその亡命政権であるチベットに対して議員連盟を作って支援をする形をとっているからです。まずはこうしたあり方に賛同し参加して下さる国会議員の皆さまに、心からの感謝と敬意を申し上げます。

チベットの亡命政府は現在実際には北インドのダラムサラにございます。中国政府の圧政から逃れ、難民となったチベットの人たちが十数万人暮らしています。

私自身そちらを以前訪問いたしましたが、彼らの非常に素晴らしい点は、彼らが中国政府に対し協調の姿勢を取りつつも、しっかりとチベットとしてのアイデンティティを守り続けているということです。本日主席大臣には、チベットと宗教の自由という題目でご講演頂きますが、現在のチベット亡命政府の視点や姿勢に、私たち日本人が学ぶべきものが多くあるでしょう。今後対中国関係、グローバル社会における多様性と対峙し、そこでどのようにあるべきか、を私たちは考える必要があります。そのために彼らの姿勢は示唆に富んだものであると思われます。

本年1月中旬にダボス会議(World Economic Forum)に出席しました。そこでは今後の世界における不安定要因について積極的議論がなされました。今日世界では第四次産業革命との兼ね合いの中で不安感が蔓延しています。グローバリズムに対する反グローバリズム、ダイバーシティをどう認めるのか、まだまだこれから議論が必要となる問題です。ダボス会議のある朝、瞑想の時間というものが設けられてました。私もそこに参加し、フランス人のチベット仏教僧の方とともに瞑想しました。現在欧州ではチベット仏教が普及し、インドから直接影響を受けたチベット仏教そのものが普遍的世界におけるひとつのスタンスとして注目されています。ダボス会議の公式プログラムのなかで、唯一の瞑想の時間としてチベット仏教の瞑想の時間が開催されていたのはとても象徴的です。

本日はロブサン・センゲ首相からは、率直なお話を伺い、様々な課題をしっかり学び、我々が出来ることは何か、またこの問題を踏まえ、日本がこれから国際社会でどうあるべきか、そのヒントを伺いたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

司会

引き続き、国家基本問題研究所理事長、櫻井よしこ先生からも一言ご挨拶頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。

挨拶/櫻井よしこ・国家基本問題研究所理事長

昨年、日本でチベットに関する国会議員連盟がはじめて正式に発足しました。

米国や欧州諸国は以前からチベットを受け入れてますが、アジア諸国では唯一日本のみがチベットのことを受け入れています。中国政府の勢力に対する配慮からか、残念ながら多くのアジア諸国には、未だ公式にダライ・ラマ法王猊下やロブサン・センゲ首相を受け入れる体制は出来ていません。日本でチベット議連が発足したことは大変有意義であり、まずはこれを組織なされた議員のみなさまに心から敬意を表明させて頂きたく思います。

こうして毎年、センゲ首相やダライ・ラマ法王猊下を我が国の国会施設にお迎えできることは大変素晴らしいことだと思います。

ご承知のように、いま世界は、大きな地殻変動を迎えております。これまでのアメリカの相対的な内向きな姿勢が中国やロシアの膨張を許してしまっています。

私はこれらは「価値観の戦い」と言えると思っております。価値観の戦いの中で、一体どの国に期待が寄せられているのか。それは実は私たちの日本国です。「アジアの中での日本」ではなく「世界の中での日本国」への期待は大変大きなものです。

私たち日本人が掲げてきた、そしてこれから掲げる価値観は、普遍的価値観でなければなりません。そしてそれは我が国の2700年に渡る歴史、文化を貫いてきた価値観です。私たち日本人は、ひとを大切にし、宗教心も大切にし、自然を敬い、民族の違いや宗教の違いを超え、ひとつひとつのものごとのそのすべてを大切にし敬ってきました。それは普遍的な価値観であると言えます。私たちは日本人はこうした価値観をこれまで持ち実践してきたのです。この精神に基づいて、これからも私たち日本人はチベットの人々とともに手を携え、ダライ・ラマ法王がいらしゃるときも、首相がいらっしゃる時も、常に心から歓迎していきたいと思います。そしてチベット議連のみなさまも、活発にこの普遍的価値観の大切さを国際社会へと伝えて頂きたい思っております。

私は、チベットも日本も必ず世界の精神的リーダーになれると確信しています。本日はこのような会を開催してくださり、チベットのためにも、そして日本のためにも、私は大変嬉しく思っております。どうもありがとうございます。

司会

ありがとうございました。チベット議連は、現在86名ですが、さらに拡大ができるように、諸先生のお力添えを賜りたく存じます。それでは、チベット亡命政権ロブサン・センゲ首席大臣からご講演を頂きたいと思います。

講演/ロブサン・センゲ主席大臣

まずはみなさまに「タシーデレー」とチベット語でご挨拶申し上げます。「アニョハセヨ」あ、これは韓国語でしたね。日本語では「ありがとうございます」です。まずはお招き頂き大変感謝申し上げます。長尾〔敬〕様、渡辺〔周〕様、下村〔博文〕様、そして馬場様、そして櫻井よしこ様をはじめとするみなさま、ここに私と私の家族共々をお招きいただき本当にありがとう御座いました。

ちょうど5年前にこの建物に伺いました。当時のホストは現在の安倍晋三総理で、その際にご同席いただきましたことも本日改めて御礼申し上げます。また安倍総理は、先日ワシントンDCで米国の新大統領ドナルド・トランプ氏とのみ実りある会談およびゴルフを実現なされたことをお祝い申し上げます。安倍総理各国の首脳に先駆けて、トランプ氏が次期大統領となった時にも会談され、そして就任直後も会談され、そして共にゴルフもされた最初の各国の首脳となられました。先日行われた日米首脳会談では、米国と日本とが国際情勢の諸問題について共に取り組むことが話し合われたようです。

チベット問題の解決策としての中道政策

1991年に米国では「チベット政策法案」(Tibet Policy Act)が成立しています。その後オバマ大統領がダライ・ラマ法王と会談をなさる度に、ホワイトハウスは公式声明として「米国政府は中道政策(middle-way approach)を支持する」ということを発表しています。それは中国政府が掲げている「ひとつの中国」(一介中国・One China)という政策を否定するものではありませんし、チベット問題の解決策として中道政策を支持してくださっています。この米国の立場と同じく日本政府、そして国会議員のみなさまにも、チベット問題の政策として中道政策にご理解を賜り、支持して頂きたく希望します。

これまで中国政府は常に、元々中国に属していたか否かや現在独自の行政府を有しているのか否かに関わらず、「ひとつの中国」という立場を堅持しきました。もしそれが彼らの必須の要求なら、チベット問題の解決策としての中道政策は、彼らにとってはひとつの試練となるでしょう。というのも、もし中国政府が中道政策でチベット問題を解決するのならば、それは「ひとつの中国」という政策を貫き通すことが出来ないケースというものを容認するか否かを彼ら自身に問わなければならないからです。

もちろん長尾先生をはじめ議員の諸先生には別の見解を持っておられる方も居られるのは承知しておりますが、現在チベット中央行政機構(Central Tibet Administrationチベット亡命政権)およびダライ・ラマ法王猊下は、「中国の枠組みおよび憲法の範意内での実質的な真の自治」というものを追求しております。これは我々の側から見れば一つの打開策ですが、それはチベット・中国の双方にとって利益をもたらす提案に他なりません。

歴史的には、チベットは主要な独立した帝国でした。過去にはその支配権は中国国境にまで及び、彼らの首都である西安を占領した歴史もあります。かつてチベット帝国は中央アジア・南アジアにいたるまで実行支配していた独立国であり、帝国でした。しかし現在のチベットは中国の占領下にあり、政治的に抑圧され、経済的・社会的に差別され、環境は破壊され、文化的な同化政策で支配されてます。本日はチベットの信教の自由について話して欲しいと言われております。これは、文化的な同化政策の問題のひとつですので、まずはそれについてお話ししたいと思います。

中国政府によるラルンガル僧院の破壊行為について

昨年9月初頭から2017年9月17日にかけ、約一年で中国政府はラルンガル僧院を破壊しようとしています。

現在ラルンガル僧院には1万2千人の僧侶と尼僧が在籍し居住しております。中国政府はこれを5千人にまで制限するため、僧坊などを破壊しています。この僧院にはチベット人だけではなく、数千人の漢人も同じように住んでいますが、彼らもまた強制退去を命じられ、二度とラルンガル僧院に戻らない旨の宣誓書に署名させられ追放されています。

中国憲法上ではもちろん信教の自由は認められています。中国政府はチベットでも現在信教の自由が保障されていると主張しています。しかしながら彼らが実際に行っていることは、ラルンガル僧院をはじめとする破壊行為なのであり、これは信教の自由を保証するということとは真逆のことに他なりません。ダライ・ラマ法王は来日し、この建物を訪れ、みなさまと直接お会いになることが出来ます。しかしながら、チベット本土ではダライ・ラマ法王の写真を携帯しているだけで問題視され、投獄されてしまう危険さえあるのです。

こうした中国政府による僧院の破壊行為はいまにはじまったことではありません。1959年、チベットは中国に占領され、その後1962年までに共産党は当時の98%のチベットの僧院・尼僧院を破壊されてしまいました。99.9%の僧侶と尼僧は僧院を追放され還俗させられました。その上でチベットの伝統・習慣・衣装はすべて禁止されてしまい、彼らは人民服の着用を義務付けられたのです。その後、60年代から70年代にかけ、中国政府はチベットの文明・文化・アイデンティティを破壊していきました。彼らはチベット人を中国人に同化させてしまい、チベットを完全なる中国の属国とすることに勝利しました。幸いにもダライ・ラマ法王のおかげで、いまはインドに亡命したチベット難民居留区で、チベット本土で破壊された主要な僧院を再興することが出来ました。苦難に満ちた、時間もかかることでしたが、それらを通じて、私たちはチベット本土にも今日仏教をある程度復興することができたのです。

仏教は現在活きた形で、チベットでも継続しているものです。先ほどのお話にありましたように、ダボス会議で僧侶との瞑想の時間が設けられるほど世界中に普及してます。

チベットとチベット人の精神はこのようなものなのです。私たちはどんなにひどい破壊行為を何度受けようたしても、必ずや何度でも再び立ち上がってきました。しかしながら、いま再び中国政府はラルンガル僧院やヤチェンガル僧院の破壊しているのです。

次期ダライ・ラマの化身認定について

またチベットの宗教上の問題として、中国共産党政府はダライ・ラマ十四世の次の化身認定について大きな関心を持っているということが挙げられます。

中国政府は、現在のダライ・ラマ法王ではなく、自分たち次のダライ・ラマを認定しようとしてます。しかしながらそもそも中国共産党政府はダライ・ラマの化身認定に関しては無関係ですし、それは合法性も正当性もなく、彼らにその権限は決してありません。この点についてはみなさまもご理解頂きたく思います。

中国政府は98%の僧院・尼僧院を破壊し、99.9%の僧侶や尼僧を僧院から追放し、僧院の破壊行為は現在進行中です。さらに現在のダライ・ラマ法王を常に批判し続けてきたのです。近年の歴史を振り返ってみても、そのような行為を為してきた中国政府が次期ダライ・ラマ認定に関して一体どのような権限を持っているというのでしょうか。これはたとえばカストロ将軍がキリスト教徒の支持も全く得ることなく、次期ローマ教皇を認定しようとするかのようなことなのです。ダライ・ラマ法王猊下が冗談でおっしゃっているように、もし中国政府が化身制度にそんなに関心をもつのなら、まずは毛沢東、鄧小平、周恩来の化身を認定すべきです。ダライ・ラマの化身である次期ダライ・ラマについては、まずは現在のダライ・ラマ法王ご自身がお決めになることです。法王ご自身が今後いつどこで何に化身として再臨するということをお決めになることができるのであって、他のすべての者にその決定権はありません。

チベット問題の重要性

また最後にひとつの問題を申し上げますが、もし中国を理解しようとするならば、チベットを理解しなければならない、と言うことができます。チベットの物語を理解することなしには、中国のことを理解することは出来ないのです。

日本の報道記事にもありましたが、安倍総理はドナルド・トランプ大統領と尖閣諸島の問題についても議論をされました。この中国との領土・領海に関する問題は、現在インドネシア、フィリピン、ベトナム、東シナ海、南シナ海のスカボロ諸島、プラトリー諸島(南沙諸島)スといったアジアのすべての地域で起こっています。

1959年チベットは侵略され、60年代にダライ・ラマ法王とチベット人は世界各地でそれを訴えましたが、当時はいくつかの国々が私たちを支援してくれたに過ぎません。

多くの国々が当時は、「それはチベットに起こったことであり、チベットは占領され、とても残念で、今後の幸運をお祈りする。しかしそのようなことは自分たちには起こりません」と言っていました。当時はインドのなかでも「チベットのみなさんに人道支援はしますが、それはインド・中国の関係には関わりのないものです」と言う声もあった位です。

しかし現在、中国との国境紛争や対立は、インド・中国だけではなく、アジア全域、尖閣諸島・南シナ海、東シナ海のすべての場所で起こっており、その地域では戸惑いを感じています。私たちチベット人にとっては、それは50年前に起こった出来事ですし、同様なことが他の国にも起こる可能性を説いてきましたが、これまでは誰も耳を傾けてはもらえません。現在中国政府は「チベットを占領した時にもどの国も問題とはしなかったので、今後それらの島々や地域を占領しても、きっと誰も問題にしない」と考えているに違いありません、だからこそこうした問題が現在も継続しているのです。

近年の衛星画像の分析によれば、それらの諸島に滑走路が建設されつつあることが確認されます。これはそれらの地域の人々に不安と戸惑いを与えています。しかしチベットの例を見るならば、既に中国政府はチベットに五つの滑走路を建設し、さらに一つ建設し、合計六つの滑走路を建設してきました。それは占領を意図したものでした。現在彼らは「一帯一路」というものを語り、中央アジアから中国を結ぶルートをはじめ、鉄道と幹線道路を建設しています。これらの政策は過去に最初にチベットで実施されたものと全く同じと言うことができるのです。

我々の両親をはじめとするチベット人は、中国政府が最初にチベットに道路を建設した時に思い違いをしました。中国政府がチベット人の経済支援を約束したその通り、きっとチベット人にとって実際にとっても役にたつ良いことをしてくれている、と勘違いしたのです。当時は「中国共産党は私たちの両親のような存在であり、道路を作ってくれ、銀貨を与えてくれる」という歌さえあったくらいなのです。

しかし実際にそれは違いました。道路の建設が終わると、その道を通って戦車が押し寄せてきました。武力による占領が行われたのです。その後、その道路を通りトラックがやってきました。そのトラックは、金、銅、ウランなどをはじめとする120種以上ものチベットの天然資源を搾取して持って行きました。それに引き続きチベットの森林は伐採されてしまい、河川にはダムが作られていきました。水力発電の主要拠点としてチベットは完全に利用されました。中国政府が道路を建設する最終的な目的は、このようことのためなのです。

先日私はアフリカ人の知人に会う機会があり、中国政府のアフリカ開発援助についてどう思うか聞かれました。私は彼らに「彼らはよい道路をつくりましたか?」「彼らは大きな娯楽施設を作りましたか?」「彼らはみなさまの指導者と協力体制を作りましたか?」と聞いたのです。彼らの答えはすべてイエスです。彼らは私の質問に驚いて「何故そんなに私たちの国のことで起こっていることが分かるのですか」と言いました。私は「それは60年前にチベットに起こったことなんです。そしてそれがいまあなたたちに起こっていることなのです。だから私は分かります。」と答えました。

現在の中国政府が行なっていることは、60年前に彼らがチベットで行なったことと全く同じです。現在の当事者には中国政府の真の意図に対して戸惑いがありますが、彼らの最終的な目的とするものが、こうしたものであるのは明らかだと思います。

またチベットの問題の重要性のもうひとつの側面として、天然資源や森林保護という観点だけではなく「チベットは世界各国の貯水槽である」というこの点にも注目して頂きたいと思います。

チベットという地域は、この地球上で、北極・南極に次ぐ巨大な氷河を保有しています。北極・南極での氷河の溶解は海面上昇と関係していますが、チベットの氷河は近隣のアジア諸国の水源となっているので、彼らの生活と直接関係するものなのです。世界人口のうち14億人もの人々がチベットを源流とする河川からの水の供給を受けています。西チベットから流れるインダス川、サトレジ川は、インドのカシミール地方を経由し、パキスタンに流れ、南チベットからブラフマプトラ川がインドを経由しバングラデシュへと流れており、これはバングラデシュの生命線となっています。それ以外にもチベットからはイラワディ川、サルウィン川、また有名なメコン川も流れていますし、チベットを源流とする河川は、アジア全域にとって貴重な生活用水の源となっています。中国の黄河や揚子江もまた、チベットを出発点としている河川です。

過去に土地をめぐる戦争が起き、現在石油をめぐる戦争が起きている。しかし今後水をめぐる戦争が起こるのも間近である、こう科学者や専門家は分析しています。近年50年の間に、チベットにあった氷河は既に半分以上が溶けてしまっています。NASAが分析し結論づけているのは、今後2100年までに、チベットの氷河のすべてが溶け、世界最大の規模の水の不足がユーラシア大陸で起こるということです。現在中国政府はアジアの給水所をコントロールし、そこを源流とする川はアジアに拡がり責任ある立場にありますが、彼らはいまもなお天然資源を搾取し、チベットの文明・文化・アイデンティティを破壊し続けるという行為を継続しています。

チベットの物語を理解するということ、それは中国を理解することです。私たちはチベットの問題を解決しなくてはなりません。

皆さまはまずは現在の中国政府をまずは御自身の視点で見て頂きたいと思います。みなさまの倫理的な基準で中国政府が倫理や人権という言葉に期待されることを行なっているのかどうか、彼らが一体何をしようとしているのか、それを検討していただきたいと思います。チベットの問題はすべての人にとってリトマス試験となるでしょう。中国共産党政権は、本来中国人ではなかったチベット人に実質的自治を認めてはじめて、国際社会における倫理的な規範を遵守していると言えると私は考えています。

チベット問題を解決するということは、アジア全域にとって利するものです。仏教文明という視点からみれば、それはすべての仏教国を利するものです。別の視点から見ても、チベットに水源を依存するすべてのアジア諸国を利するものです。中国政府にとっても、まずはチベット問題を解決すること、それは国際社会における責任を果たす、ということにほかなりません。

チベット支援活動の発するメッセージ

このたび日本チベット国会議員連盟が設立されたことは、大変ありがたいことです。

87名の会員の皆さまのこの活動への参加表明は、極めて重要です。

皆さまのこの活動は、チベット本土で虐げられているチベット人たちに必ずや非常に強いメッセージを発信しています。チベット本土では、何百人、何千人もの人が僧院を破壊され、住む場所を追われ、投獄され、彼らは口を閉ざし、常に様々な手段で各国からの希望と支援のメッセージに耳を傾け続けています。みなさまのこの議員連盟の活動は彼らに対して非常に強力なメッセージを送ってくださっています。彼らを勇気づけ、彼らに希望を与えてくれています。同時に中国政府に対しても、また正しいメッセージを発信しています。アジア諸国およびアジアの仏教国にとって、皆さまの発信するメッセージは、民主主義、経済発展、文化的価値観、それらは共存可能なものなのだ、ということを語ってくれています。

個人的なことについて申し上げますと、私の両親はチベットからインドに亡命しました。私はそのインドのチベット難民キャンプで生まれて、そしてそこで育った者のひとりです。チベット難民居留区に作られたチベット人の学校へ通い、幸運にもフルブライト奨学金を得ることができました。そのおかげで修士課程・博士課程をハーバード・ロースクールで修めることができました。米国には16年間滞在しましたが、私はそのすべてを捨てダラムサラに戻りました。それはチベット亡命政府を運営するためです。私の母方の叔父は、恐らくこの日本の沖縄米軍基地で訓練を受け、再び中国軍とゲリラ戦をするためにチベットに戻っていき、帰らぬ人となってしましました。しかし、私たちの先祖がもっていたチベット人の精神、また犠牲となった多くのチベット人の精神を私たちは受け継ぎ、そして若い世代の私たちは彼らの戦いをいまも継続しています。

いまこの苦難の時に皆さまが我々の味方となってくださっていることは本当に有り難いことです。そのことを深く受け止めるとともに、私たちもこの問題を必ずや成功裏のうちに解決へと導こうと決意をしております。

私たちは、チベットが自由を取り戻せること、そしてダライ・ラマ法王猊下が必ずやチベットの首都ラサに戻ることができること、これは必ず実現可能であると確信してます。いま私はみなさまの客人ですが、それが実現する日には、必ずや皆さまを賓客としてお迎えします。その時までどうぞよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。

質疑

司会

センゲ首相、ありがとうございました。今一度拍手をもって感謝申し上げたいと思います。ただいまから限られた時間ではございますが、質疑応答に移りたいと思います。

和田義明

北海道選出の和田義明でございます。貴重なお話をありがとうございました。大変示唆に富んだお話で勉強になりました。私は実はインドに5年間住んでおりましたので、ダライ・ラマ法王猊下がインドの国民からも大変愛され、尊敬されていたことを大変懐かしく思い出しました。当時インドと中国は国境紛争しており、突発的事案も多々あったことを記憶しています。本議連に私が参加したのは、チベットは対岸の火事ではない、という思からです。特に尖閣諸島や沖縄で同様なことが起こってはならない、そんな思いからです。そのような思いをもちこの議連に参加しましたが、本日のお話を伺い、改めて大変衝撃を覚えております。そして本日のような話を広く、このようなことを国民にも知らしめなければならないと感じました。今後も議連の一員としてしっかり頑張って行きたいと思います。是非ラサでご馳走になれる日を楽しみにしております。ありがとうございます。

ロブサン・センゲ主席大臣

いまのお話のように、インドでは最近12月10日だったと思いますが、ダライ・ラマ法王は現在のインドの首相にインドの首相官邸で一般公表された公式な行事としてお会いになりました。

もちろんこれまで何度もダライ・ラマ法王はインドの首相にお会いしておりますが、今回初じめてインド政府の公式行事として公邸にお招きい頂くこととなりました。ダライ・ラマ法王は行進等にもご参観され、同時にインド文部省主催で開催された国際仏教者会議にもご参加されました。

インド政府はこの50年以上にも渡り、我々チベット難民を受け入れて、支援してくださっているだけではなく、積極的に公式に我々の発展に寄与していただきています。

またインド政府と中国政府で交わされた2010・2011年の外交文書には「ひとつの中国」がありません。何故ならば、インド政府が、もし中国政府が「ひとつの中国」というものを主張するのならば、まずは「ひとつのインド」というものを認めなければならないと主張しているからです。

 

山谷えり子

センゲ首相ありがとうございました。ダラムサラでのリーダーシップを間近に拝見した身としましては、本日のお話もまた力強いものであると感じました。日本はダライ・ラマ法王猊下を国会議員が世界最大規模といってもいい規模で先日お迎えし、チベット議員連盟も発足できました。チベットの未来を確かなものとするために、米国ではチベットを支援するために予算をあて、カナダやEU諸国でも様々なチベット支援を行なっていると聞いております。私どもも日本からの支援としてどのような方法があるのか現在様々に議論をしておりますが、首相の方ではどうした支援が心強いのか、具体的にどのようなことができるのか、ということについて所見を伺えればと思います。

ロブサン・センゲ主席大臣

米国政府からはこれまで何十年にも渡ってチベット人のために様々な形で継続的に人道支援をして頂いております。現在の米国の予算書には公式に「インド・ネパールの亡命チベット難民居留区を対象とした」という資金援助の項目の記載が御座います。これは主に難民居留区における福利厚生や教育支援を目的としたものですが、近年「チベット人コミュニティ銀行」の創設のための基金も拠出されました。これらは上院理事会で通過し、大統領に署名された公式文書ですし、それは米国の対中国政策の公式な立場を表明しているものです。これは米国の予算でのチベット支援は合衆国国際開発庁(USAID)を通じて行われます。

この予算は公式予算として毎年6百万ドルあるもので、それ以外にも400万米ドルの資金援助がおこなれ、合計すると毎年1千万ドルの支援をいただくこととなりました。米国以外の諸国でも直接ではありませんが、各国にあるNGOやNPO団体に資金助成を行うことを通じて、それらが現在のチベット中央行政機構(亡命政府)へと送られてくるのです。それによって教育や文化の保護、難民の健康促進といった活動が可能となっており、それは大変ありがたい人道支援です。

政治的には日本のみなさまにはダライ・ラマ法王のお考えの通り、中道政策を支持していただく思います。それだけでも大変ありがたいことだと思います。米国がひとつの中国の政策を認めながらも中道政策を支持してくださっているのと同様なことを私たちはまずはお願いしたいです。米国ではその上で公的資金援助としての人道支援を行なっていただいておりますが、まずはそこからお願いしたいです。

司会

時間になりましたので、閉会の辞を、当議連幹事長、馬場伸幸先生にお願いします。

 

閉会の辞/馬場伸幸幹事長

みなさんお疲れ様です。日本維新の会、馬場伸幸です。

まず、ロブサン・センゲ首相、今日は本当に、お忙しい中ご講演いただき、誠にありがとうございました。また、議連の諸先生も、予算委員会の開会中にも関らず、多くの先生にご参加を賜りましたこと温冷申し上げます。本日は議員本人、31名、代理、38名、合計69名のご参加を頂きました。厚く御礼を申し上げます。

本日お話にあった水源地の買収、鉱物資源の搾取といった問題は、他国のこととは思えないお話で、国会でも、外国人やまた外国資本による国土の買収が問題視されております。中国政府の日本海での動向への関心は一層高まり、これらは国家の安全保障問題としても大きな問題です。議連の諸先生にはこれらの問題の本質はどこにあるのかということをご理解いただき、その上で議会活動を進めて頂けますようお願い申し上げます。また本日のお話を踏まえ、今後下村会長を中心として、チベットの皆様方にどのような支援ができるのか、それを具体的に議論して具現化していくことも皆さまと共に今後考えていきたいと思います。世界の皆様方にも、このチベット情勢により深い理解をしていただき、一致団結し今後この問題に取り組んでいきましょう、とこの場でみなさまと共にお誓いを申し上げ、本日の閉会のご挨拶とさせていただきます。今後ともよろしくどうぞお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。

 

以上

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